トランプ政権、UAEとAI半導体ディール締結──NVIDIA株急騰の裏にある“新たな地政学”

米国株

再登板後初の中東歴訪に出たトランプ大統領が、サウジアラビアおよびアラブ首長国連邦(UAE)との間で、米国製AI半導体の大規模供給枠組みを取りまとめました。特にUAEとは「テクノロジー枠組み協定(Technology Framework Agreement)」を最終合意し、NVIDIA製GPUを年間50万枚供給する道筋がついたことが世界の注目を集めています。

米政府がこれほど大規模かつ高性能な半導体の輸出を承認するのは極めて異例のこと。これによりUAEは「世界最大級のAIキャンパス」を建設すると発表し、中東地域のテクノロジー地図が大きく塗り替わろうとしています。

一方で、米国内では安全保障上の観点から強い反発もあり、今回のディールが将来的にどのような影響を及ぼすのか──投資家は冷静に見極める必要があります。


市場は即座に反応、NVIDIA株は3兆ドルの大台を再奪取

この“中東AI特需”を受けて、NVIDIA株は瞬時に反応。2営業日で約10%上昇し、5月15日時点の終値ベースで時価総額は3兆ドル台を回復しました。これはアップル、マイクロソフトに続く世界トップクラスの規模です。

CEOジェンスン・フアン氏の個人資産も、わずか1日で120億ドル(約1.9兆円)増加したと報じられ、まさに“AIドリーム”の象徴的な場面となりました。

この急騰の背景には、「買い手不足」の懸念よりもむしろ、「供給が追いつかない」ことへの警戒感が市場心理に強く影響している構図があります。生成AIの計算処理に欠かせないGPUの供給制約が、価格を押し上げる原動力になっているのです。


ただし、地政学的リスクと政策の揺れ戻しには要警戒

一方で、このような先端半導体の大量輸出は、米国の政界、特に安全保障を重視する議会内の“タカ派”からの反発を招いています。

トランプ政権は、前政権で採用されていたAI関連輸出規制(いわゆる「AI拡散ルール」)を一部撤回し、友好国リストを拡張することでUAEへの供給を可能にしました。しかし、これに対し「最終的には中国に流出するのでは」との懸念が急速に高まりつつあります。

現に、米議会の一部では「国家安全保障上の穴を広げている」として、緊急公聴会の開催が検討されているとの情報もあり、政策が再び逆回転すれば、NVIDIAの出荷スケジュールやライセンス審査に大きな影響を及ぼす可能性があります。


投資家が注視すべき3つのチェックポイント

今回の中東ディールは、エヌビディアにとって短期的には好材料ですが、慎重な見極めも必要です。以下の3点は、今後の株価変動を占う上での重要なポイントです。

① 商務省ライセンスの正式承認

現在、UAE向けの半導体供給は「暫定合意」にとどまっており、米商務省による個別の輸出ライセンス審査が残っています。このプロセスが遅延すれば、出荷開始が後ろ倒しになり、業績見通しにも影響が及ぶリスクがあります。

② 5月28日の決算発表と数量ガイダンス

5月末に予定されているNVIDIAの決算説明会では、「中東向け出荷の業績インパクト」がどのように語られるかが焦点となります。四半期ベースでEPS成長が鈍化傾向にある中、数量面での具体的なガイダンスがあるかどうかが投資家心理を大きく左右します。

③ 湾岸諸国の独自AI開発計画

UAEの「G42」や、サウジアラビアの「Humain」といった現地テック企業は、米国製GPU依存からの脱却を目指し、独自チップの開発や台湾・韓国企業との連携を模索しています。長期的には、米国企業にとっての安定的な需要先でなくなる可能性もあり、競争構造の変化に注意が必要です。


中東×AI×地政学:このディールが意味するもの

今回の中東ディールは、単なるビジネス取引ではなく、AIを巡る覇権争いにおける新たな章の幕開けといえます。米国は、中東という新たな同盟圏を通じてAI技術の影響力を広げつつありますが、その裏には常に「技術の流出」と「規制の揺り戻し」という火種が存在しています。

エヌビディア株は今後も高いボラティリティを伴う展開が予想されます。AI革命の果実を享受したいのであれば、政策ヘッドライン・供給体制・企業決算という三本柱を常に追いかける姿勢が不可欠です。


まとめ

トランプ大統領による“中東AIディール”は、短期的にはエヌビディアと投資家にとって追い風となりました。とはいえ、これは一過性の熱狂なのか、それとも新たな成長の序章なのか──。

政策変更、地政学リスク、現地の技術自立化といった不確実性の波の中で、AI関連株は新たなフェーズへと進んでいます。冷静な視点を持ち、次の一手を見極めることが、これからの投資家には求められるでしょう。

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